ストーリー
石ノ森学園中学校へ転向してきた中学3年生の有栖川徹子(アリス)は自由奔放でおてんばな女の子。
転校早々、アリスはとある噂を耳にします。その噂とは1年前に3年2組で起きたという「殺人事件」についてでした。
「ユダが、四人のユダに殺された」
不可解な噂に訝しがるアリスでしたが、その「殺人事件」にはたった一人の生き証人がいることを聞かされます。その生き証人とは、アリスの家の隣に住んでいる荒井花(ハナ)という引きこもりの同級生のことでした。さらに、その荒井花の家は「花屋敷」と呼ばれ、クラスメイト達から恐れられているということも…
「花屋敷」に住んでいるという同級生のハナ。彼女なら不可解な「殺人事件」について何か知っていると踏んだアリスは、花屋敷へ潜入することを決意します。そして、事件の鍵を握るという人物、ハナと出会うことに成功するのでした。
ユダという人物は本当殺されたのか?ハナは何故引きこもっているのか?次々と質問をするアリスに対してハナは問いかけます。
「知りたい?何があったのか。」
こうして、ハナとアリス、ふたりの少女の「世界で一番小さい殺人事件」の謎を解く物語が始まるのでした…
キャスト・スタッフ
- 監督
- 岩井俊二
- 脚本
- 岩井俊二
- 出演
- 鈴木杏(荒井花)
- 蒼井優(有栖川徹子)
- 平泉成(黒柳健次 / 初老の社員)
- 相田翔子(有栖川加代)
- キムラ緑子(荒井友美)
- 木村多江(堤ユキ)
- 清水由紀(矢上風子)
- 勝地涼(湯田光太郎)
- 黒木華(萩野里美)
- 鈴木蘭々(陸奥睦美)
- 郭智博(朝長先生)
「花とアリス殺人事件」について
今回の映画感想は『花とアリス殺人事件』です。
前作『花とアリス』の前日譚にあたる青春映画。また、岩井俊二監督初の長編アニメーション作品でもあります。
ハナとアリスはどのようにして出会ったのか、二人はどのようにして前作『花とアリス』における関係性となっていったのか、という「二人の距離感の遷移」がよくわかる作品でした。
僕は『花とアリス』という映画が大好きだったので、本作が公開されると知ってとても嬉しかったのを覚えています。映画的にも”前作のあの二人が出会うまでが描かれる”とか”あの惨劇の3年前、誰よりも早く異変に気付き、たった一人で戦っていた男がいた。この映画はその男の物語である”とかいうシチュエーションはすごく燃えるものがありますよね。それに通ずるものを感じていましたし、またあの映画の世界に行けるんだ、と思うだけで楽しい気持ちになれました。そしてワクワクもしていました。
確かに…確かに楽しい気持ちにもなっていましたし、ワクワクもしていたんですが、本作の予告編を観たら、途端に不安になってしまいました。なぜなら、およそ前作には登場し得なかったはずのオカルト的な要素が思い切り見えてるではないですか(笑)
ユダ!? 魔法陣!? 結界ってなんだ!
楽しみな反面、嫌な予感もしました。大好きな映画の世界観をぶち壊されるのではないか、と。しかし、いざ鑑賞してみるとそれは杞憂に終わったので、ホッとしました。
結論から言いますと、本作を観ると前作が見たくなり、前作を観ると本作が見たくなるという、すごくバランスのとれたいい映画でした。
そして何よりも、ひさしぶりに見たハナとアリスがなんら変わらずにそこにいた、ということがすごく嬉しかったです。
ハナとアリスは幼馴染じゃなかったっけ?
前作『花とアリス』では、ふたりは幼馴染で何をするにもどこに行くにもいつも一緒という関係でした。確かにそうでしたね。ふたりはすごく仲が良かったです。
そして本作では、その二人の出会いが描かれているのですが、少し待ってください。冒頭、アリスは石ノ森学園中学校へ転校してきましたよね。その時、アリスは中学3年生でした。
ということは、ハナとアリスは幼馴染のはずですが、出会ったのは『花とアリス』のオープニングの時点からほんの少し前という事になるのではないでしょうか。
それって、幼馴染ではなくないですか?
いや、いいんです、いいんですよ。確かに映画のテーマは二人の出会いですし、事実その通りの内容になっています。それにすごく楽しめました。しかし、僕は前作にてハナとアリスがお互いに掛けた言葉や想い、共通の友人が二人をやさしく諭したりといった様々なシーンにおいて「二人は幼馴染」という背景をベースに、二人の想いや成長していく姿を見ていたのです。
劇中で描かれてはいませんが、幼稚園、小学校、中学校とずっと一緒だった二人には数多のドラマがあったんだろうなあと勝手に想像していました。それは楽しいことだったり、悲しいことだったり、辛いことだったり本当に色々あったはずです。でもその中でお互いに成長してきて、それだけのことを一緒に乗り越えてきたであろう二人だからこそ、僕には『花とアリス』における二人の歩みがとても眩しく見え、感慨深いものとなっていたのです。
と、ここまで好き勝手に述べてきましたが、すべては僕が勝手にのめり込んで想いを馳せていただけで、映画はまったく悪くありません(笑)それに「二人は幼馴染」を抜きにしても、『花とアリス』が素晴らしいことに変わりありません。もちろん本作も同様です。
ハナとアリスは相変わらず
まず、僕が一番はじめに言いたいことは、ハナとアリスというキャラクターが11年前の『花とアリス』から何も変わっていなかったということです。またあの二人に会えた事をとても嬉しく思いました。この映画を作ってくださった方々には本当に感謝しています。
劇中のアリスの言動を見ていて思ったことは、「アリスらしい」「アリスならそういうことしそう」など、自分が持っていた”有栖川 徹子”というキャラクター観に基づくものばかりでした。魅力あるキャラクーが変わらずにいてくれたということが、こんなにも嬉しいことなのだということに改めて気付かせてくれました。
もちろん、”荒井 花”に関しても同様です。彼女も変わらずいてくれましたし、この頃から『花とアリス』の”ハナ”が垣間見えていて、笑ってしまいました(笑)
昔と何ら変わりない、”あの二人”に再び会えたというだけでも、本当にこの映画を観て良かったと心から思います。
ハナとアリスの友情
ハナとアリスが出会う話ですので、本作は友情の始まりが描かれている訳なのですが、ではハナとアリスの友情とは何かということになりますよね。もちろん、友情の始まりも友情には違いないのですが、ここで言う友情とは、前作「花とアリス」における二人の友情のことなのです。
「花とアリス」にて、ハナとアリスがケンカ(正確にはケンカじゃないのですが)している時に、二人の共通の友人である女の子が、ハナにやさしく諭すように掛けた言葉があります。それは「ハナちゃんをバレエに誘ってくれたのはアリスだよね。だから、ケンカしちゃダメだよ。」というものでした。このセリフを聞いた時、引き篭もっていたハナを「花屋敷」から連れ出し、ハナが学校へ通ったり、友達をつくったり、先輩に恋をしたり、と言った普通の学校生活を送ることができるきっかけを作ってくれたのは、アリスだったと言うことがわかります。
さらに、このセリフによって上述で僕が勝手にゴネていた、ハナとアリスの幼馴染としての関係、そして二人が歩んできたであろう、経験してきたであろう、様々な背景が無数にあったはずで、それらを乗り越えてきたからこそ、今の二人の関係性、すなわち”友情”があるのだと僕は思ったのです。
ですので、僕は前作のそのくだりがすごく気になっていたのです。
”アリスが、引きこもりだったハナを花屋敷から連れ出した…”
これだけでもう、その時のエピソードが観たくなりますよね(笑)あのハナをどうやって連れ出したのか、いや、でもアリスならそれもできてしまいそうだな、みたいな。
そうなのです。『花とアリス』では劇中で明確なエピソードを示さなくとも、ちょっとしたセリフやふとした行動などによって、見えないけれど、その背景に隠れている無数のエピソードを見せるという、観る者の想像力を掻き立てるのがとても上手いのです(笑)
つまり、本作『花とアリス殺人事件』は、その無数にある”見えてしまったけれど描かれていないエピソード”のひとつであり、冒頭で本作を観ると前作が、前作を観ると今作が観たくなるというのは、こういった理由からくるものだったのです。
ですので、前作の”ハナとアリスの友情”の裏にあったであろう様々な出来事に勝手に想像を膨らませていた僕にとって、本作の公開はとても嬉しい出来事だったんですね。本当に感謝です。
肝心のエピソードですが、これも話してしまうと初見で観る時の楽しさが損なわれかねないので、ぜひ本編をお楽しみください。前作が好きな方であればとても楽しめると思います。
続編がでたということにばかり着目してしまいましたが、本作のテーマもやはり、10代という時期に経験する不安や期待、心情など、微妙な心の機微の変化などに充てられており、そういった心の動きをハナとアリスというキャラクターを通して見ることができると思います。
最後に
映画を観ていると、それが面白ければ面白いほど、終わらないで欲しいと思ってしまいますよね。もっと観ていたいとも思います。でも映画には必ず終わりがあります。その時に、楽しい世界から置いていかれそうな気持ちになって変な焦燥感が出たり、寂しいと思ったりするんです。でも、映画が終わったその後に、一緒に観に行った人や、同じ映画を観た人と映画の話をするのもまた楽しかったりするんですよね。続き出ないかな、とかね(笑)
それで、続編などが出ることっていうのが結構あったりして、すごく喜ぶんですよ。またアイツらに会えるんだ!またあの楽しい世界に行けるんだ!って。
ここからがまた複雑で、素晴らしい続編が公開されて喜ぶ事もあれば、これなら前作までで終わっていてもよかったかなあ、と思う事も正直あります。
でも、大好きな映画の続編が公開されるっていうだけで本当に嬉しいものですよね。その結果が良かったとしても、悪かったとしても、大好きな映画の世界の続きな訳ですから、自分の中でうまく咀嚼すればいいのかなと思っています。
僕としては、上述の理由から『花とアリス殺人事件』について、「続編が出てくれて本当に良かった」と心から思っています。