ファンタスティック Mr.FOX
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- Title
- Fantastic Mr. Fox
- Release date
- 2009
- Country
- USA / UK
"ファンタスティックに、生き残る──。"
ストーリー
キツネのMr.フォックスは、日々の糧を人間から盗むことで得ていた。それは大変な危険をともなう行為だったが、それこそがキツネらしく生きることであると信じており、また誇りに思っていた。
ある日、Mr.フォックスは妻であるMrs.フォックスから子供ができたことを告げられる。そして、生まれてくる子供のためにも危険なことはもうしないでほしいと懇願され、それを受け入れる。
キツネ時間で数年後…盗みから足を洗ったMr.フォックスは新聞記者として働いていた。二人の間には息子のアッシュも生まれ、フォックス一家の暮らしは貧しいながらも幸せなものだった。
しかしMr.フォックスは、幸せではあるけれど「キツネらしく生きる」ことができない今の生活に満たされない想いを募らせていく。
そしてついに、募る想いを抑えられなくなったMr.フォックスは、愛する家族のために、そして自分が「キツネらしく生きる」ために行動を起こすことを決意する。
家族のためにより良い暮らしを求めたMr.フォックスは、丘の上にそびえる立派な大木の家を購入する。新たな生活をスタートさせたフォックス一家だったが、Mr.フォックスはもうしないと約束したはずの盗みを家族に内緒で再び始めてしまう。
毎日のように大切な食料品や家畜を盗まれる人間たち。
やがて怒りが頂点に達した人間たちは、報復として大規模なキツネ狩りを行うことを宣言する…
キャスト・スタッフ
- 監督
- ウェス・アンダーソン
- 脚本
- ノア・バームバック
- ウェス・アンダーソン
- 原作
- ロアルド・ダール 「すばらしき父さん狐」
- 出演
- ジョージ・クルーニー(Mr.フォックス)
- メリル・ストリープ(Mrs.フォックス)
- ジェイソン・シュワルツマン(アッシュ)
- ビル・マーレイ(バジャー)
- エリック・アンダーソン(クリストファソン)
- ウォーリー・ウォロダースキー(カイリ)
- ビル・マーレイ(バジャー)
- ウィレム・デフォー(ラット)
- マイケル・ガンボン(ビーン)
- ロビン・ハールストン(ボギス)
- ヒューゴ・ギネス(バンス)
「ファンタスティック Mr.FOX」について
今回の映画感想は「ファンタスティック Mr.FOX」です。
ロアルド・ダールの児童文学「すばらしき父さん狐」を原作としたストップモーションアニメーション作品となっています。
実はこの「ファンタスティック Mr.FOX」という映画、なにかで見かけて何となくで観た映画だったのですが、独特な世界観やセリフ回し、魅力的なキャラクターに粋な演出、そしてハイクオリティーな美術造形など、僕はすっかりこの作品が大好きになってしまいました。
また、アイデンティティーの確立や自分らしく生きることの大切さ、それらを家族や生活をといった守るべきものがある中でどのように折り合いをつけるかといった、ある種の”理想と現実”についての身近でありながら非常に難しい問題がテーマの一つとなっています。
自分ならどうするだろうと考えるもよし、傍観者として静観するもよし、キャラクターに感情移入して思いきりのめり込むもよしと、色々な楽しみ方がある点もよかったです。何より観賞後の充足感と多幸感が凄かったですね…本当に幸せな気持ちになりました。
素晴らしすぎるストップモーションアニメ
この映画最大の魅力はなんといっても全編ストップモーションで製作されているところではないでしょうか。しかも凄まじいまでの作り込みです。細部までこだわり抜いたそのハイクオリティな美術造形の数々を目の当たりにし、僕は震えてしまいました。さらに恐るべきことに、そのハイクオリティな美術造形が映画全編を通して維持されるのです。そのうえ魅力的なキャラクターや喜怒哀楽およそ感情の全てを揺さぶる奥深いストーリー、粋なセリフや演出の数々…
映画そのものが面白いことはもちろんですが、何よりも僕がこれまで抱いていたストップモーションアニメに対する概念を見事に打ち砕いてくれました。この映画に出会えて本当によかったです。
美術造形がとにかく凄い
もうとにかく凄いです。凄すぎて「すごい」しか感想が出てこないくらい凄いです。
撮影に使われている人形、家具、セットの作り込みが凄まじいです。例えば動物たちの人形。動物のキャラクターなので当然毛皮があるのですが、その毛皮の毛、一本一本が丁寧に作り込まれているのです。さらにキャラクターの感情や動きによってその一本一本の毛を整えているというこだわりようです。歯や牙なんかも一本づつ作られているんですよ!凄くないですか!?
僕はメイキング映像というものをあまり観ることはないのですが、こればかりは本編と同じくらい引き込まれました。僕が美術造形の仕事をしているというのもあると思いますが、この映画とメイキング映像を観ると無性に何かを作りたくなります(笑)
メイキング映像でも十分凄い内容なのですが、調べてみると「ウェス・アンダーソンの世界 ファンタスティックMr.FOX THE MAKING FANTASTIC MR.FOX」なる書籍が販売されているではないですか。
早速購入して読んでみたところ、まず「買ってよかった」と心の底から思いました。メイキングでは語りきれなかった数々のエピソードや設定、小物やパペットについての資料などが惜しみなく掲載されています。小さいパペットが使用している絵具や筆といった絵画セットやリンゴ酒のケースと空き瓶、タイプライターや無線機などがこれでもかというくらい登場します。
映画では一瞬で出番を終えてしまう小道具たちですが、そんな一瞬の出番のためにここまで作り込むのかといったこだわりには敬意しかありません。映画の世界に引き込まれるのも納得です。
この映画の世界観や美術造形に少しでも魅力を感じたら、いえ、興味が欠片でも会ったらぜひとも手にとって読んでいただきたいです。メチャクチャ面白いので。
さらにそういった映画の小物や美術造形について興味がおありなら、「映画プロップ・グラフィックス スクリーンの中の小道具たち」という書籍もおすすめです。こちらも映画で使用されている小道具についての制作過程が詳細に綴られています。古い紙に見せるためのエイジングの方法や古く見せる為に使用した「染みのレシピ」とかね。もうたまりませんね!
このようにとんでもないクオリティで作られている本作ですが、構想10年、撮影期間2年で制作されています。納得です。むしろ撮影期間がたったの2年ということに驚かされます。本作を鑑賞する際はストーリーや登場人物はもちろん、セットや小道具たちにも注目してみると非常に面白いと思います。
とても魅力的なキャラクター
上記にて美術造形が凄まじいと散々述べてきましたが、素晴らしいのは美術造形だけではありません。この映画は恐ろしいことに登場人物もいちいち魅力的なんです。この映画の世界観とも相まって、登場人物一人ひとりが実にいい味を出しています。すべては紹介できませんが、(本当はすべて紹介したいですが)何人かについて言及してみたいと思います。
父として、夫として、野生のキツネとして ─「Mr.フォックス」
この映画の主人公、Mr.フォックス。とにかくかっこいいです。おまけにユーモアがあってお茶目で、おしゃれで、博識で、スポーツ万能です。おまけにクレバーでアーバンな方です。セリフなんかもいちいちかわいくて、あるシーンで奥さんであるMrs.フォックスに、「帰り道は近道と景色がいい道、どっちがいい?」と聞いたり。
これだけを見ると万能なキツネエリートのような印象を受けますが、好奇心から危機に陥ったり、野生の本能に従った結果、取り返しのつかない事態を引き起こしたり、色々とやらかしたりするので、完璧なキツネといった印象はかけらもなく、とても親しみやすいキャラクターだったりします。
そして何より、家族に良い暮らしをさせたい、よき夫でありたい、立派な父と呼ばれたい、と常に思っており、とても家族思いです。そのようなMr.フォックスですから、非常に感情移入しやすいキャラクターとなっているとも思います。
さらに、安全で安定した暮らしをしていたとしても、本当の自分(野生のキツネとしての自分)を偽ることを良しとせず、野生のキツネとしてのアイデンティティのために危険を冒して行動するという姿がとてもかっこいいです。いわゆる「負けるとわかっていても、やらねばならない時がある」といった具合です。
Mr.フォックスのこの姿勢こそが、この映画の中での重要なテーマとなっています。要は「家族の幸せが一番大切だが、自分の生き方も大事。妥協することなくどちらも実現させる」というファンタスティックな生き方を目指している訳です。これ、誰しもが憧れる生き方ですが実現するのはすごく難しいですよね。だからこそ、Mr.フォックスに対する感情移入の度合いが大きいのかなとも思います。
彼がいれば大丈夫という安心感が心地よい ─「カイリ・スヴェン・オポッサム」
Mr.フォックスが購入した新居の管理人、カイリ・スヴェン・オポッサム。僕はこのキャラクターが大好きです。
カイリは、マイペースでおっとりしていて、どこか抜けているところのあるオポッサムなのですが、Mr.フォックスの家の管理人という縁から、盗みの相棒として抜擢され、事あるごとに駆り出されることになります。
盗みに入る前に、Mr.フォックスとカイリは入念な下調べと打ち合わせを行うのですが、カイリは足をプラプラさせたり、ボーッとしてたりで、ちゃんと作戦を理解しているのか怪しい感じです(笑)
しかしいざ盗みに入ると、ハイスペックなMr.フォックスに当たり前のようについていってるではないですか(笑)このカイリ・スヴェン・オポッサム、確実にただのオポッサムではありません。何故普通についていけるんだ!
僕は一見すると頼りなさそうだけど実は有能、意識せずとも行動が自然と有能というキャラクターが好きだったりします。なのでこのカイリというキャラクターがすごく好きになりました。危機的な状況であっても、「なんかこいつがいると安心するな」と思えるキャラクターがいる作品っていいですよね。
Mr.フォックスに盗まれ続ける ─「人間たち」
Mr.フォックスと対立する人間たちもとても良いキャラクターに仕上がっています。特に3番目に登場するビーンという男。Mr.フォックス達が盗みに入った倉庫での登場シーンがめちゃくちゃかっこいいです。こいつ、すごくヤバイ奴だ…って思わされます。
偉大な父、Mr.フォックスの背中を見つめる少し風変わりな息子 ─「アッシュ」
最後にMr.フォックスの息子、アッシュをちょっとだけ紹介させてください。この子がもう本当にかわいいです。これは映画を観ていただければわかります。ちょっと変わっていて、ちょっと反抗的で、ちょっと素直じゃない。父親であるMr.フォックスに突っかかったり、興味を引こうとしたり。最初は「この子大丈夫か!?」と思いましたが、映画を見ていれば彼の行動にはちゃんと理由があり、整合性が取れているものだとすぐに気づけます。そしてこの映画はアッシュの物語でもあるということに気づきます。
ぜひ映画を観てほしいです。そしてアッシュの本心を知ってください。成長を見届けてください。この2つこそ『ファンタスティック Mr.FOX』の大きな見所だと思っています。
「人と違うということは、とても大切なこと」
息子アッシュを優しく諭すMrs.フォックスのセリフです。ストップモーションによるアクションやキャラクターたちの一癖も二癖もあるユーモアが目立ち、コミカルな印象を受けるのですが、物語の核心はアイデンティの確立なんかにあったりして結構奥深いです。
また、Mr.フォックスが終盤にとある動物と出会うシーンがあるのですが、そのシーンを見たときに僕は泣きそうになりました。まるで宗教画のような圧倒的なシーンなんです。Mr.フォックスが目指している完全な理想がそこにはあるのですが、決して自分はその世界に立ち入ることはできないのだ、ということがそのシーンでは完璧に表現されています。だからといって伝説や神話のような別次元の出来事というわけではなく、自分が生きている世界でそのような存在がちゃんと存在しているというのがすごく説得力があっていいなと思いました。
その出来事によってMr.フォックスが理想の生き方を諦めるのかというともちろんそうではありません。劇中での明確な描写はありませんが、「見ろ!あれこそが理想の姿だ!キツネらしく生きることを絶対に諦めないぞ!そしてよき父、よき夫であることも諦めない!」と、これまでに以上にファンタスティックに生きる決意を固めたように見えます(笑)
最後に
今までは、ストップモーションアニメにそこまで思い入れはなかったのですが、「ファンタスティック Mr.FOX」を観てから他のストップモーションアニメ作品も観てみたくなりました。ストップモーションアニメが好きな方はもちろん、今まで見たことがないという方もとても楽しめると思います。
もっとも、ストップモーションアニメ以前にお話自体がすばらしいので、少しでも気になった方は絶対に観た方がいいと思います。
僕はこの映画、本当に観てよかった。鑑賞中の高揚感、鑑賞後の充足感がすごいです。これは僕にとっての映画を観る理由の一つだったりします。本当におすすめの映画です。映画っていいなあと思える作品に出会えたからこそ、また映画を観ようってなりますもんね。そういう映画を共有しあったり、共感しあったりするのもすごく楽しいですよね。だから僕は、映画を観た後にご飯食べながらそういう話をしているときが本当に楽しくて大好きなのです。
そんな素晴らしい映画「ファンタスティック Mr.FOX」のウェス・アンダーソン監督が、ストップモーションアニメ第二弾「犬ヶ島」を公開してくれました。「ファンタスティック Mr.FOX」をはじめて鑑賞した時のワクワクや感動を再び味わうことができて、感謝の念しかありません…!もし興味がありましたらぜひともご鑑賞ください。