ストーリー
近未来の日本、メガ崎市。
この街では、犬だけに感染する恐ろしい伝染病「ドッグ病」が猛威を振るっていました。幸いにも、人間への感染は未だ報告されていませんでしたが、事態を重く見たメガ崎市の小林市長は、全ての犬を人間社会から隔離すると宣言します。
隔離先となる島はゴミの処分場でした。全ての犬はこの島へ追放されることとなり、この島はいつしか『犬ヶ島』と呼ばれるようになりました。そして、その最初の一匹として、小林市長の養子である小林アタリの愛犬『スポッツ』が選ばれてしまいます。小林市長は言います。「家族同然である愛犬を追放することはとても辛いこと。人にそれを強制する以上、まずは自分たちから実行するのが筋である」と。
こうして、アタリの愛犬スポッツは容赦無く『犬ヶ島』へと追放されてしまいます。そして、スポッツのその後の消息は完全に途絶えてしまうのでした。
そんなある日、捨てられた犬達で溢れかえる『犬ヶ島』に一機の小型飛行機が不時着しまます。中に乗っていたのはかつてのスポッツの飼い主、小林アタリでした。アタリはたった一人で、愛犬であり親友でもあるスポッツを救う為に『犬ヶ島』へやってきたのです。そして、『犬ヶ島』で新たに出会った優しい犬達5匹とともに、スポッツの捜索を開始するのでした。
一方その頃、メガ崎市では犬の追放令は何者かの陰謀によるものだと考える人間がいました。その人物とは、アメリカからやってきた交換留学生、トレイシーです。
彼女は、たった一人で愛犬を救う為に『犬ヶ島』へ渡ったアタリに影響を受け、メガ崎市に渦巻く陰謀を暴く為に行動を開始するのでした…
キャスト・スタッフ
- 監督
- ウェス・アンダーソン
- 脚本
- ウェス・アンダーソン
- 出演
- コーユー・ランキン(小林アタリ)
- リーブ・シュレイバー(スポッツ)
- ブライアン・クランストン(チーフ)
- エドワード・ノートン(レックス)
- ボブ・バラバン(キング)
- ビル・マーレイ(ボス)
- ジェームズ・カーン(大男)
- ジェフ・ゴールドブラム(デューク)
- スカーレット・ヨハンソン(ナツメグ)
- 野村訓市(小林市長)
- グレタ・ガーウィグ(トレイシー)
- フランシス・マクドーマンド(通訳ネルソン)
- ハーヴェイ・カイテル(ゴンド)
- 伊藤 晃(渡辺教授)
- 野田 洋次郎(ニュースキャスター)
- オノ・ヨーコ(科学者助手ヨーコ・オノ)
- ティルダ・スウィントン(オラクル)
- 渡辺 謙(筆頭執刀医)
- 夏木マリ(おばさん)
- 村上虹郎(ヒロシ編集長)
- フィッシャー・スティーブンス(スクラップ)
「犬ヶ島」について
今回の映画感想は「犬ヶ島」です。
「グランド・ブダペスト・ホテル」「ダージリン急行」のウェス・アンダーソン監督が送る、ストップモーション・アニメーション作品。
待っていました!同監督のストップモーション・アニメーションである『ファンタスティック Mr.FOX』が大好きになっていた僕は、またストップモーションの映画作ってくれないかなあと切実に思っていました。なので『犬ヶ島』の予告編を見つけた時は本当に嬉しかったです。
近未来の日本が舞台となっているのにも関わらず、どこか懐かしさや暖かさを感じたり、劇中で使用されているBGMが本当に作品とマッチしていたり、それでいてユーモアや社会的なメッセージもしっかりと込められているなど、ウェス・アンダーソン監督らしさを感じることができる映画でした。
鑑賞するなら絶対に字幕版!
まず、この映画を観るにあたって、字幕版での鑑賞を強くおすすめします。というのもこの映画、登場人物は皆母国語を話すからです。日本人なら日本語を、アメリカ人なら英語をといった具合にです。
それでも、日本語のスピーチなどが英語に置き換わることがあるのですが、映画の冒頭で「時には通訳者、交換留学生又は電子通訳機を通して訳される」との「前置き」があるように、そのようなシーンではキッチリと通訳者や電子通訳機で翻訳しているシーンが入れられています(笑)
この試みがとても面白く、それでいて映画の中にうまく溶け込んでいるので字幕版を観ているという感じがまったくしないのです。またそれが、ストップモーション・アニメーションならではの世界観と相まって、いい味出まくってるんです(笑)それがまた最高に愛おしいのです(笑)
このように、翻訳や字幕などといった、本来映画の内容には直接関わらない設定にも遊び心を加えて、作品の中にうまく落とし込むことができるというのもウェス・アンダーソン監督の大きな魅力のひとつだと思います。
ですので!本作を鑑賞する際は是非とも字幕版を観ていただきたいです!
独特の世界観は唯一無二!
前作のストップモーション・アニメーション作品である『ファンタスティック Mr.FOX』もそうでしたが、やはりこの監督が創り出す世界観は本当に素晴らしいです!近未来のメガ崎市…そこに暮らす人々や動物たち、街並みや文化など、どれをとっても素晴らしいの一言なんです。
どこか懐かしくて、暖かくて、寂しくて…ノスタルジーを感じるけど新しく、未来へ生きていくという力強さをも感じることが出来ます。
それに加え、BGMまで素晴らしいんです。本当に隙がありません。とにかく一度、何も言わずに観て欲しいです(笑)
また、そこに登場するキャラクター達の一挙手一投足も本当によく作り込まれており、コミカルでありながらテンポよく、それでいて日本文化に対するリスペクトまで忘れることがないという完璧な仕上がりになっています。よくある、外国から見た「なんか色々と間違っている日本」などそこには微塵も存在していないのです(笑)
さらに、登場人物のセリフも本当に心に訴えてくるものが多いです。泣きたくなるくらい優しい言葉や、強い思い、複雑な感情…声の出演をされている方々がもう本当にカッコいい!渋い!
そういったキャラクター達も、独特で完成された世界観を作り上げることに大きく貢献しています。なんというか、バランスがすごくいいんです。それもすごく高いレベルで。こういったことを出来てしまうというのもウェス・アンダーソン監督の大きな魅力のひとつだと思います。
それなのに、人間と動物の関わり方というか、関係性について考えさせられるメッセージ性がちゃんと作品に込められているのですから驚嘆するしかありません。
様々な批判などがチラホラ…
非の打ち所がない(と僕は思っています!)本作ですが、海外ではホワイトウォッシングだとか、なんで人間は母国語を話すのに犬はみんな英語を喋るんだとか、日本が舞台なのに何故白人が活躍しているんだとか、日本がステレオタイプすぎるだとかいう批判が起きてたりもします。
しかしながら、僕はそれらの批判に対して、そこまで気になりませんでした。ホワイトウォッシングについては恥ずかしながら(その感覚と言うか)よくわかりませんが、犬がみんな英語を話すのは、共通言語として用いているに過ぎないと僕は思っています。もちろん犬達はそれぞれの母国語も話せますが、まどろっこしいので英語を話しているのだと解釈しました。これに関しては現実世界の僕たちだってそうですよね。(もっと言うと、犬の声優さんに俳優さんをキャステイングしているので、その関係から英語にせざるを得なかったのだと思いますが…)
おまけに、映画冒頭での「前置き」でも、「犬の鳴き声は全て英語に訳されている」と書かれているではないですか(笑)犬はちゃんと母国語を話しているけれど、英語に訳してあるからね!と書いていてくれているではないですか!ここまでしてくれているのですから、これに文句を言うのはちょっと乱暴な気がしますよね。
そして、白人が活躍するといっても、そのきっかけとなったのは日本人の少年であったりするわけですし、日本人もしっかりと行動を起こしていますし、その指摘も少しずれている気がするんですよね。むしろあの映画の内容で白人が活躍していると思ってしまうこと自体がホワイトウォッシング的思考(白人に意識が向き過ぎている的な)なのではと思ってしまいます…そもそも外圧がないと変われないというのは日本を的確に表現していると言えるのでは?
最後の、日本人がステレオタイプ過ぎるという批判も、この批判した人がむしろ日本をバカにしている感じがしてしまいます(笑)日本人が喜んでいるのだからいいじゃないですか(笑)日本人が声を上げるのならまだしも、他国の方がこういう批判をするというのは、どこかその国の人を軽く見ているのでは、とも思ってしまいます。(お気遣いしてくれるのはありがたいのですが)
このように、色々な批判があったみたいなんですが、僕個人としては、「そんな戯言は丸めてゴミ箱へポイ」という感じですね(笑)何でもそうですが、やりすぎは良くないと思います。生まれるべき素晴らしいモノまで生まれなくなってしまいます。
ただ、こうした問題は非常にデリケートなものなので一概に言えるものではないのもまた事実です。ですので、賛否両論あっていいとも思っています。大事なことは、相手に萎縮させて何も言えなくさせたり、抑え込むことではなく、議論をして理解を深め、お互いを尊重し合うということではないでしょうか。
それができれば、様々な価値観を持った人々が共生できる多様性に富んだ素晴らしい社会が生まれるのではないかと思っています。
また、多様性に富んだ社会とは他者に寛容である、ということでもあります。なぜなら、自分が受け入れがたい価値観や文化、考え方などもどうしたって出てきます。(相手だって当然そうです)そういう価値観や文化もあるんだと、理解して受け入れるわけですからね。他者に寛容でなければ多様性というものは成立しえません。
とても大変なことだとは思いますが、いろんな価値観や文化が尊重され、様々な違いを持った人々が共に暮らせる社会が実現できたら、それはとても素晴らしいことですよね。
最後に
とにかく一度観ていただきたいです。本当に素晴らしい映画です。鑑賞後の充足感、多幸感が凄まじいです(笑)終わってしまうのが辛いくらいに…
本当にいい映画ですので、是非とも、ご鑑賞ください!